ジム、やめる人2023年04月29日 15:06

 ジム、やめる人


 朝一番、しばらく顔を見なかったYさんがロッカー室で皆んなと雑談していた。久しぶりですね。どないしてたんですか。私にいじめられたんで、今月いっぱいでやめますといきなりジョーク。ええー、どないしたんですか?しばらく顔見んかって、心配してましたで。

 いや、実は海外へ移住しまんねん。ええ〜どこですか?四国です。息子がおって、そばに来たらと言うので、行くことにしたんや。ちょうど10分ぐらいのとこにマンションが見つかりましてん。そりゃ良かったですね。理想のパターンですやん。

 70代後半のYさんはいつも口数少なく、穏やかそうな人である。常連のメンバーには誤解がないよう挨拶していたのだ。

 何も言わずにやめると、大体、病気の噂が立つのだ。個人的なことはあまり突っ込まないタチなので、それ以上のことは知らない。それでも毎週2、3日顔合わせて、風呂やサウナでアホ言ってたのでさみしい。

 結構親しくしてた朝のメンバーで、ジムを去ったのは3人目である。元気に去った人は初めてなので、あっぱれだ。自分の番が来たら、病気か、怪我か、元気に移住か。蓋して鍵をかけていた先の事が、顔を出してきた日であった。

 今更おそれるに足りず。時と共に想いは変わり、雑念は消え去る。おぼえてられないのだ。

 ある老僧の言葉がよぎった。悩みまくってあの世へ行くほど賢いのは滅多におらん。忘却は生き物に与えられた生きる力の源泉なのだ。老は悪いことばかりではないぞ。そのうち忘れたことも忘れられるぞ。日々楽しいもんよ。