小屋の魅力2022年09月30日 08:19

 小屋の魅力


 小さい頃から小屋が好きだった。ダンボール箱で作った。その時分は大きめの箱は捨てずに取ってあった。木製のりんご箱などは親のもので、子供は手を出せない。紙の箱は遊び用に与えられた。中に入ったり、積んだり穴を開けたりして遊んだ。どうしてか分からないが囲われた空間に入りたがる。手の届く範囲というのは安心できるのだと思う。

 ある程度の歳になって、この興味は現実味を浴びだす。色々書籍をさがしては読み漁った。写真を見てあれこれ楽しむのである。その度に夢が広がる。建築関係の本は写真が多く高くて手が出せない。本屋で見つけては図書館にリクエストして借りた。

 夢に終わってはなさけない。手が届きそうなのは小屋である。「小さな家・可愛い家」は写真集でよく借りた。面白い家がいっぱい載っている。


 建築家で有名なル・コルビュジェの「カップ・マルタンの休暇小屋」にも憧れた。この小屋はかなり良く考えられているので有名だ。


 日本では藤森照信のツリーハウスや茶室も面白い。流石にツリーハウスは作ろうとは思わなかったが、材料を含めて自然を生かす考え方が気に入っている。この前行った草屋根の近江八幡のラコリーナも良かった。

 中村好文の「小屋から家へ」は買った。この本に古今東西の面白い小屋が紹介されている。


 出典:中村好文 「小屋から家へ」TOTO出版


 鴨長明の方丈は京都下鴨の川合神社に復元されているので、見に行った。また、良寛の五合庵も新潟まで行って見てきた。だが、感動は現物を確認することで終焉した。

 結局、色々夢を見てロマンを膨らませたが、実際に作ったのは単管を組んだ小屋である。設計はするものの、その小屋で何をするのかを考えた時、あれもこれもになる。利休の茶室のように削ぎ落とすわけにはいかない。結局、コストと手間がふくらみ、夢は破れる。考えすぎのきらいがあるので、とりあえず、薪や農具の一時置き場を作ることにした。

 初めて単管で組んだ小屋は、構造的にバランスが悪い。長さ3メータの単管を柱にした。地面を少し掘って20センチ位埋めた。単管の掘立て式である。問題は筋交がなく、垂木が細いのだ。ねじれはクランプのヒンジ強度に依存している。上部が軽いので壊れることはないが、ぐらぐらで屋根に上がるのは怖い。


 出来上がって、中にいろいろ置き出した。そのうち奥に行く通路がなくなり、ものの出し入れが不自由になった。物置として使い勝手が悪い。

 中に立てかけてある古い柱などを外に出そう。そこで周囲に庇を出した。その下に簡易な棚を組んだ。この辺りは単管なのでやり易い。これで飛躍的に使い勝手が良くなった。ただし、周囲は多少濡れてもよい長尺の廃材などを置いている。



 とりあえずこんな物置から手をつけた。体裁を気にすることはない。手軽に改造できて結構面白い。

 このころから、単管ワークに自信がついてきた。「たねや」のラ コリーナ近江八幡の草屋根 (2021,11)でも書いたが、屋根に草を生やす藤森先生の建築にあこがれていた。

 それではというので、単管組みで作ろうと考えた。屋根に土をのせるので、素人なりに強度計算もして、筋交なども結構いれた。


 屋根の構造は野地板にOSB合板、ポリカ波板である。波板の継ぎ目は接着剤でコーキングした。素人である。防水シートをかますのを忘れた。いざ屋根に登ると波板がブヨブヨで頼りない。まあ、なんとなるかと思い、とりあえず腐りにくいシュロの木を載せて、四角の囲いを作った。囲いの中に防水シートを敷けばよい。

 ここまできて、屋根の上に生やす植物のことを考えた。藤森先生の家はタンポポハウス。赤瀬川原平の家はニラハウスである。いずれも散水装置がついている。また植物は種を作る。タンポポの種はよく飛ぶ。近所からクレームがでたことを何処かで読んだ。

 我小屋に散水となるとホースで撒けばよい。手入れにしょっちゅう屋根に登らねばならない。この辺りまで想像して、草屋根はあきらめた。残念無念である。

 数年経って、屋根に載せたシュロの皮はカラスが巣の材料としてつついて行った。幹の部分は腐って蟻の餌になっていた。重かったシュロもスカスカになっていた。全て下ろして普通の波板の屋根に戻した。

 そのうち草や剪定枝などの処分場がほしくなって、小屋の前に焚き火場を作った。火からまわりの樹木を守るのも兼ねて、小屋から単管を伸ばして、長い庇を出した。これで小雨ならしのげる。この辺りの拡張性は単管ならではである。台風が来れば飛びそうだが、また修復すればよい。


 単管小屋は二つ作ったが重宝している。おかげで単管の取り扱いは上手くなった。雨の日が良い。小屋の雨漏りの点検が楽しい。不具合や改善箇所も見つけやすく、そこからまた色々構想できる。

 手が届きそうな夢がよい。構想してから完成までのプロセスが最も楽しい。これは絵を描くときも仕上がり前がよい。そばにワイングラスでもあれば最高である。

 プロセスが楽しいのはなんでも一緒かもしれない。たとえばカメラを買うときでも、機種を選んでいる時が一番ワクワクする。買ってしまえば熱は冷める。

 結果はすでに過去のもので、変えようがない。自由度のある先は面白いのである。散歩やドライブとよく似ている。人間はうまくできている。即今で生きて、想いは先に、楽しくすごしましょう。

 次の、単管ワークは般若湯片手に、只今構想中・・・夢はふくらむ・・・さて・・・?